
Linuxの生みの親であるリーナス・トーバルズ氏は、自分の考えを率直に述べることを恐れない人物として知られています。
これまで、Nvidia、AMD、Intelといった大企業を何度も批判し、GitHubにも不満をぶちまけてきたなか、最新の批判のターゲットが、X(旧Twitter)、SpaceX、Teslaなどのオーナーとして知られる大富豪イーロン・マスク氏だったことがわかりました(Neowin)。
生産性について語る
リーナス・トーバルズ氏は、YouTubeチャンネルLinus Tech Tipsに出演し、番組内の「理想のLinux PC」を組み立てる企画の中、開発者の生産性をどう測るかという話題に触れました。
以下のような会話が行われています。
LTT: There was a recent thing from a major tech company where developers were asked to say how many lines of code they wrote, and if it wasn't enough, they were terminated. And there was someone here who was extremely upset about that approach to measuring productivity because it means nothing.
Linus Torvalds: Oh yeah, no, you shouldn't even be upset at that point. That's just incompetence. Anybody who thinks that's a valid metric is too stupid to work at a tech company.
LTT: You do know who you just said that about, right?
Linus Torvalds: No.
LTT: Oh. Uh... he was a prominent figure in the improved efficiency of the U.S. Government recently.
Linus Torvalds: Oh, apparently I was spot-on.
LTT: 「ある大手テック企業で、開発者に『何行コードを書いたか』を申告させて、十分でなければ解雇するということがありました。そのやり方に非常に怒っていた人がいたんですが、生産性の指標としては全く意味がないですよね。」
Linus Torvalds: 「ああ、いや、それに怒る必要すらないよ。それはただの無能だ。そんなものを有効な指標だと思う人は、テック企業で働くには愚かすぎる。」
LTT: 「今あなたが誰について言ったか分かってます?」
Linus Torvalds: 「いや。」
LTT: 「えっと…彼は最近、米国政府の効率改善に大きく関わった著名な人物なんです。」
Linus Torvalds: 「ああ、じゃあ私は完全に的を射ていたわけだ。」
リーナス・トーバルズ氏は、開発者の生産性について「コードの行数で生産性を測るなんて愚かだ。そんなことを信じる人はテック企業で働く資格がない」と述べています。
一方、イーロン・マスク氏は、Twitter買収直後、社員に対し「最近書いたコードを印刷して提出」「優れたコードを直接メールで送る」など「ハードコア文化」を掲げたことで知られています。
会話の流れからすると、リーナス・トーバルズ氏は、イーロン・マスク氏の評価法だと知らずに「コードの行数で生産性を測る方法」を批判したようですが、それを知ったあとに「私は完全に的を射ていたわけだ」とダメ押ししています。
なお、トーバルズ氏の発言は単なる辛辣な批判ではなく、ソフトウェア工学の歴史的な議論を踏まえたものとなっています。コードの行数は「量」を示すだけで、質や設計力を反映しないため、生産性指標としては不適切だという昔から繰り返されてきた指摘なのです。
もともと、コード行数(LOC)による工数見積もりは、生産性指標として広く使われていましたが、言語ごとの記法の違いや、リファクタリングという概念によって「行数=生産性」という単純な図式が崩れました。冗長なコードを書けば行数は増えるが品質は下がる、という逆効果も明らかになり、マーティン・ファウラー氏らアジャイルの提唱者は「ソフトウェアの価値は行数では測れない」と強調しています。
